2019年3月3日日曜日

20190303晩年の記(その四)


 PET検査の結果、その男の骨盤や大腿骨基部や頸骨頂部(膝関節)や足首の骨に腫瘍が発生していることがわかった。しかし血液検査の結果では腫瘍マーカーに異常は見られずレントゲンの画像を見ても腫瘍にがん特有の特徴は見られない。膝関節頸骨頂部の腫瘍部分に針を刺して組織を抽出し、その組織の生体検査を行った結果、血液肉腫が見つかった。問題はその血液肉腫が発生する原因が何処に有るのかということである。
 
 病院ではその男の治療のため主治医を中心に医師四人と看護師のAチームからなるチームを編成してその男のための治療に当たることになった。その中の一人T医師はがんの原発部位が腰椎か脊椎にあると狙いをつけた。早速脊椎と腰椎のCT検査が行われた。その結果第二腰椎に著しい病変が見られた。血液は骨髄で造られる。その病変箇所で造られた肉腫がその男の全身をかけ巡りその男の骨格の骨の先端部に腫瘍を発生させていたのである。幸い骨以外の如何なる臓器には転移は見られない。因みにその男の母親は終戦直後乳癌で亡くなっている。享年33才であった。その男の父親も白血病で享年70才で亡くなっている。

 この難病の治療について幾つかの方法が検討された。問題はその男の年齢である。80才を過ぎた高齢者に対して抗がん剤治療を行うのは余りにも過酷である。かと言って股関節や膝関節を人工物に取り換えるにも3カ月はかかるので採用出来ない。結局腫瘍箇所を放射線で叩きつつ、骨肉腫などに適用する抗がん剤をごく少量ずつかつ回数も減らして慎重に投与することになった。このためその男の右側の胸の上部に抗がん剤だけでなく緩和ケア用の薬を注入するポートが埋め込まれた。今のところその男は非常に自立しているので麻薬系を含む痛み止めの薬は自分でコントロールしてのんでいる。

 腫瘍が小さくなり、がんの痛みが少なくなった段階でせめて一日でも二日でもその男が妻誰某と人生最後の旅行が出来るように治療に併せて足腰を鍛えるリハビリを施すことになった。この為T医師の提案で腫瘍により溶け出している骨を強化するため、その病院がオリジナルの腰の骨を強くする薬も試してみることになった。これにはかなり酷い副作用が懸念されるがその男は妻誰某との人生最後の旅行を実現させるためリスクを侵してでも頑張って耐えるつもりでいる。

 誰某はその男に奇跡が起きると確信している。その男自身も入院直後まで苦しんでいた左足の脛の疲労感・疼痛は全く無くなった。病院内は広いので車椅子で移動する時は足で蹴って移動している。これは足の運動にもなっている。がんは自己免疫力が強まれば小さくなる。その男自身も自分ががんと共生できるだろうと思うようになっている。

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