2019年4月26日金曜日

20190426晩年の記(その六)


 その男は世界に希有の癌を患っている。それはその男の腹部大動脈瘤の中で発生している血管肉腫と言う細胞が、その動脈瘤の位置から下の骨や骨の近くの軟らかい肉に腫瘍を発生させているものである。

 腹部大動脈は脊椎に接している。その男の第四・第五腰椎に腫瘍が発生し、それが溶けて崩れて神経を圧迫していたため入院中に脊中管狭窄症になっていて暫くの間薬で背中の痛みを抑えていたが、脊椎固定の手術を受けてその痛みは全く無くなった。

 骨盤や大腿骨に出来た腫瘍も一部(骨盤の後ろの左側の腫瘍)は病理検査のため摘出し、他は放射線照射で治療した。その効果は出ているようである。右膝脛骨頂部に出来ていた腫瘍に対する放射線治療も今日終了した。

 その男は自分の腰椎以下の下半身の骨に出来た腫瘍を「敵」と見なしその「敵」の中枢部を殲滅させるとともに各地の「敵」戦闘拠点を個別に攻撃することを考えていたが、血液内科の医師から詳しい説明を受けて、そのように単純な考えは間違っていることを知った。

 元々腫瘍が拡がったのはその男の免疫力が低下したためである。その男が入院中にその男の免疫力が急激に低下したに違いない。その男は戦略を変更し、市販の玄米酵素「ハイゲンキ」やプロポリスなどを摂取し、ひたすら自己免疫力を高めることにした。金はかかるが「最期まで一生懸命生きる」ことをせず医師から宣告された「余命一年」をいたずらに過ごすようなことはしたくない、いよいよ「死ぬ」ときには「一所懸命」に死ぬ、とその男はそのように自分の最期まで生きたいと常々思っている。

 K大学病院に検査入院し、暫くして2月末再入院以来、本当に親身になって診て下さり、手術し、治療して下さったA先生・T先生・Y先生はじめ諸先生、多くの看護師たち・看護助手たち・リハビリのK理学療法士ら関係者各位に感謝しつつ、その男は余命一年をより良く生きるため明日その病院を去る。看護師たち・看護助手たちのかいがいしい働きぶりを目の当たりにし、その男は彼女たちのために何かを書き残したいと思っている。


2019年4月5日金曜日

20190405晩年の記(その五)


 その男は原因がまだ判明していない希少癌を患いステージ4の重篤な状況にある。PET検査の結果その男の腰椎から足首の骨に至る各所の骨や骨に接する軟部の筋肉に腫瘍が出来ている。不思議なことに頭部や内蔵には腫瘍が出来ていない。

 この大学病院に入院後ベッドから起き上がろうとする時腰に近い背骨の辺りに強い痛みが出て起き上がるのに一苦労だった。脊椎の手術を受ける前までは副作用の強い痛み止薬を服用してその痛みを凌いでいた。

 痛みの原因は第四腰椎と第五腰椎に腫瘍が出来ていて、第四腰椎の骨が溶けて神経を圧迫していたためだった。脊中管狭窄が起きていたのである。脊椎班の主治医はこの問題を解決する手術において経験が非常に豊富で自信に満ちている。その先生はその男とその男の妻である誰某に手術の内容を詳しく説明した。

 その内容と言うのは健全な第三腰椎と第四腰椎、第四腰椎と第五腰椎、第五腰椎と仙骨の間をボルトで固定し、第三腰椎と仙骨の間に柱を建ててボルトで固定し、神経の管をずらして脊椎に触らないようにするものであった。手術は見事に成功し、ベッドから起き上がるとき痛みはなくなり楽になった。

 この手術が行われる前に珍しい手術が行われた。それは脊椎の手術による大量の出血を防ぐためと腫瘍が出来ている腰椎が崩れるのを防ぐため、放射線科の医師により、その男の右股に近い動脈に2㎜のカテーテルを入れ、そこから微細なチューブを差し込み腫瘍に向かう幾つかの動脈にある物質を詰めてその腫瘍に供給される栄養を断つものである。この手術はCT画像を見ながら行われた。その手術は局部麻酔で行われたので医師たちの会話が聞こえる。「上手く行った」と聞いてその男は安心した。

 骨盤や右膝の脛骨頂部に出来ている腫瘍については放射線治療が行われた。病原を調べるためその男の左臀部上部の骨盤軟部の腫瘍を周辺の筋肉ごとえぐりとり現在病理検査が行われていて間もなく結果が出る。まだ病原は分かっていないがもし血液肉腫肉腫によるものであるならばその男の余命は5年、またもし血管内皮腫であるならば90才になっても生きている人がいるとのことである。ただその男の右脚や右骨盤に出来ている腫瘍は軽い痛みを伴っている。副作用の少ない痛み止薬により、それは耐えられない程の痛みではない。

 もし今後癌が進行し痛みがますようになれば癌末期対策として予めその男の右胸に埋め込んであるポートから麻薬が点滴されるようになるであろう。その男は病理が明かになり治療方針が決まれば退院し治療のため定期的にその病院に通って治療を受けることになる。しかしもし病原が血液肉腫の場合は死に備えて緩和ケア対策が必要になる。またもし他に病原があればそれに応じた治療が行われるだろう。いずれにせよその男は毎日リハビリを受けていて自宅に戻れるように準備している。

 介護用ベッドとか歩行補助のための手すりとか入浴用の椅子など直ぐ手配できるようになっている。その男の息子たちが協力して介護ベッドを置くスペースを作った。その男の妻はその男が入院以来毎日欠かさず病院に来てその男のシャワーや衣服の着替えや清拭など細々と気を配っている。病院ではその男の家族のこてが話題になっている。