2009年6月21日日曜日


道具と器具(20090621

 人は道具を使う動物である。道具という言葉には広い意味で器具も含まれるのだろうが、道具と器具は人に力を与えるものである。おおざっぱに道具と器具の違いを分けるならば、道具は人の能力を拡大し、器具は人の能力を補うものである。

 例えば、車やコンピュータは人間の能力を拡大するから道具である。一方、メガネや時計などは人間の能力を補うものだから器具である。老齢期になると必要になって来る人が多い入れ歯や補聴器なども器具のたぐいである。

 車はポピュラーな道具で、この道具を使えば人は短い時間で遠くまで出かけることができる。コンピュータも同様で、この道具を使えば人は世界中に情報を発信することができるし、世界中からいろいろな情報を得ることができる。小型飛行機やヨットを持っている人は空を飛び海に出ることができる。ハングライダーを操ることができる人は鳥のように空を舞うことができる。潜水服を付けて酸素ボンベをしょって水に潜れる人は、魚のように水中を泳ぐことができる。道具は人間の能力を拡大する物である。

 一方、年を取って耳が遠くなった人は補聴器を使うと聞こえるようになる。将来は年を取って足腰が衰えた歩けなった人でも、ある種のズボンをはけば歩けるようになるだろう。杖や押し車や電動車いすなどを使えば、足腰の不自由を補うことができる。

 道具や器具をうまく使えるように自らも努力し、また教育と訓練を受ければ生活の質は大幅に向上する。男は道具や器具を使うことが好きである。男は矯正視力(眼鏡をかけた状態での視力)が両眼とも0.5ぐらいのとき、近くの眼科クリニックで白内障の手術を受けた。そのとき眼科医の先生は「長距離ドライバーなどで矯正視力が0.5あっても手術を受ける人がいますよ」と言ったので手術を受けることにした。先生が左右の視力をそれぞれ遠方と近いところ別々に調整してくれたので、男はメガネなしでも新聞を読めるようになり、遠方を見るにも不自由していない。それでもパソコンの画面に向かっている時などにはメガネをかけている。先生は「手術をしたからといって決して若い時のようにはなりませんよ」と言っていたが、男は現状に十分満足している。手術してもう5年ぐらい経っているが…。

 男は定年退職後再就職はせずボランティア団体で男の女房が言う「ただ働き」をしていたことがある。その時ハローワークでそのボランティア団体がある場所に近いところにある補聴器の店が人を募集していること知り、何年かそこでアルバイトをしたことがある。男はそこでコンピュータで調整する最新の補聴器の調整や、人それぞれで異なる耳の穴の形をとる職人技をすぐ身に付けた。そのとき「年をとればやれ補聴器、やれ入れ歯と金がかかるものだな」と思ったものである。なにしろ電子式の最新の補聴器は片耳だけで334万円もしているからである。両耳揃えれば軽自動車1台を買えるほどである。あまりにも小さいので紛失して新たに買った人が何人かいた。

 年を取ってくれば人間の諸能力や機能は衰えてくる。そしてそれを補おうとすれば沢山の費用がかかるようになる。男は車の方は必要なくなったし、タクシーなどを利用する方が楽なので廃止してしまったが、コンピュータには金をかけている。そのうち補聴器なども買わなければならなくだろう。道具と器具は年をとればとるほど必要になって来るものだ。