2009年6月19日金曜日


熱帯魚(20090619

 国際宇宙ステーションの日本の施設「きぼう」に取り付けられる船外実験施設を運ぶ予定のスペースシャトルの打ち上げが燃料漏れのため延期された。
 
 国際宇宙ステーションには宮城県仙台市にあるKOYO生化学研究所というところで開発されたバイウオーターという液体の中に、その液体で生息できる飼育された熱帯魚を入れて宇宙環境での飼育状況をテストしたらしい。

 男はその結果がどうであったか聞いていないが、同研究所がJAXAから依頼を受けて実験に参加すると宣伝されている時期に、その飼育セットを購入した。K市内の大規模モールの書籍売り場で展示されていたのを男は興味をもって、一番小さい25cmサイズのものを購入した。今その水槽は男の部屋の机のそばの台上に置かれている。

 バイオウオーターは水替えが不要である。だから宇宙実験の材料になったのであろう。水替えが不要であるといっても、長期間放っておくと苔が水槽の壁面や水底の砂利などに増殖してくる。男はどうも魚の様子が変なので水槽をよく見たら、壁面が薄い苔で覆われているのに気づき、指定された手順通り水槽と砂利の洗浄を行った。バイオウオーターは少し補充しただけで何カ月以上も替えてはいない。

 今、魚は透明なバイオウオーターの中にじっとしている。 男が初めに‘ピータン’と命名したその魚は元気を取り戻してくれるかどうか、男はパソコンの画面に向かいながら時々水槽の様子に眼をやっている。餌は週に一度、バイオドロップという液体を週に2度与えるだけでよく、男が女房と一緒に時々旅行するときは、1週間くらい餌もバイオドロップも与えなくてもよい。男は元気がないピータンにバイオドロップを与えて様子を見ている。

 この水槽には初め2匹のピータンがいたのであるが、餌やりの時喧嘩したりして、多分栄養不十分で1匹は死んでしまった。魚は無料で送ってくるので飼う気であればその研究所に申し込めばよい。しかし、男はもしこのピータンが死んでしまったら、もう飼うのは止めようかと思っている。

 ところが「おい!ピータン、大丈夫か?元気になれよ。」と声をかけたら、急に元気になって水面に上がってきた。餌を待っているようである。男が耳かきスプーンにほんの少しばかり与えてみたが食い付きが良くない。そこでKOYO生化学研究所に電話を入れて聞いてみた。研究所では「気にしなくてもいいですよ。微生物を食べていますから大丈夫ですから」という。魚は元気そうなので、水面に2、3片の餌を残し、放っておくことにした。

 男はこの水槽のそばに大窓オブツーサというサボテンの仲間をひと株育てている。このような生物を傍において時々様子を見、こまめに世話をすると穏やかな気分になれる。

 男は現役時代このようなゆとりはなかった。人生の終わりの時期、人によってその長さは10年前後から数十年の間を男のように過ごすことができる人は幸せである。男は女房からよくそのように言われていて、全くそのとおりであると納得している。しかし自分も弟のように会社を経営し、生き生きと過ごしたいと思う時が全くなかったわけではない。女房は「○○さんは死ぬまで働き続けなければならないのよ」という。しかし時間は誰にも平等に与えられているので、それをどう使うかはその人の勝手であると男は思っている。