2009年9月14日月曜日

石鹸の匂い(20090914)

 男の家の浴室は一昨年新しいユニットバスにとり換えた。家は万事コンパクトに出来上がっている。浴室もその一つである。浴室に隣接する洗面所の収納用家具は女房が通信販売で見つけた高さ1.8mの白色のものが並び、すっきりしている。洗面台もユニット式のものであるが全体の雰囲気に調和している。

 男はかつてロスアンジェルスのトーレンスという町で半年余りプール付きのアパートメントの一室で暮らしたことがあるが、そのアパートの外観、内装とも実用的で質素であった。壁はペンキが塗られていた。キッチンにシンクや自動食器洗浄機がついてはいるが、家具などはレンタルで、部屋の掃除は週一回契約先から来てくれるので、電気掃除機などの不要であった。

 勿論、男が知己を得ていた日系のM博士が住んでいたパロスベーデスの高級住宅ではそれなりに調度品が備えられてはいたが、いわゆる豪華というほどの物でもなく普通であった。普通のアメリカ人の住宅は質素で実用的である。アメリカには実用第一の文化があると思ったものである。

 男も女房も似たような考え方で、質素で淡泊で余分なもの削ぎ落されていて、そういう中に美しさや心豊かさや暖かさがあるような雰囲気を好んでいる。女房は四季折々の花や撮ってきた花の写真のパネルや日本のシーズンの行事にちなむちょっとした飾り物を飾り、季節の移ろいを楽しめるようにしている。

 先日女房は男が使っていた石鹸箱をしまい込み、代わりに女房と共用でボディ用の液体洗剤を使うようにした。それは石鹸が水にぬれて溶け出し、石鹸箱を置いた棚が汚れるからである。浴室内はいつも清潔で明るく保つため、シャワーを使った後は壁などについた水滴を取り除き、カビが生えないようにいつも乾燥状態にしている。

 男はしばらくの期間、そのボディ用の液体洗剤を使っていた。しかし男は若い頃から長年固形石鹸を使い続けてきたのでどうも落ち着かない。そこで再び固形石鹸を使うことにした。これは使いつけると気持ちのよいものである。若い頃よく銭湯を利用していたが、銭湯から出てくる湯上りの女性たちの石鹸の匂いは清潔感があって良かった。「やはり石鹸を使うよ」と言ったら女房は「いいわよ。年寄りは石鹸が大好きなのだから」とからかう。男は固形石鹸をつかうと汚れがさっぱりと落ちるようであるので固形石鹸が好きである。

 男は毎朝シャワーを浴びて、特に胸と背中は石鹸をつけて洗い流す。その理由は加齢臭を除去するためである。朝、胸と背中を洗い流せば夕方まで加齢臭は防げる、という話を女房はテレビか何かで知って男に話したことがあった。以来、男は毎朝それを実行している。とかく男性は皮脂が多い。女房は洗顔用に炭の成分が入っているチューブ入りの石鹸を買ってきて男にプレセントしてくれた。確かにこれを使うと顔の皮膚の表面が非常にすっきりする。今年の炎熱の夏であった。よく汗をかいた。顔の脂汗はそれを使って洗い落としている。その後ヒアルロン酸が多く含まれているローションをつけると気持ちがよい。
女房の口癖は「年寄りの男は不潔で臭い」である。一般に年寄りの男性たちは垢抜けしないものを着、背中を丸め、顎を突き出し、足を余り上げずに歩いている人が多い。男よりも年が若い人でも見かけはかなり年上である。生活の習慣、ものの考え方、姿勢、服装などで人は幾つも年が上のように見えたり、幾つも年が下に見えたりする。

 男は固形石鹸が大好きな年寄りではあるが、常に足腰を鍛えて体躯がしっかりしているので歩く姿勢も顎を出さず、見た目で若いと思う。固形石鹸をはあの世に逝くまで愛し続けたい。