2010年4月8日木曜日

ブッダ『感興のことば』を学ぶ(19) (20100408)

「犯罪加害者・家族たちの告白」という番組を観た。犯罪被害者の権利については、被害者たちの運動が世論を動かしてかなり状況が変わったが、加害者の家族のことは無視されてきた。犯罪者を出したのはその家族や会社などにも原因があるとして、世間では冷たく扱われてきた。かくいう私自身もつい最近まで、犯罪者出した家族に対して冷たい視線を向けていた。子供が人を殺したりするのは親の教育が悪かったからだと思っていた。

ところが、Newton『知りたい!遺伝のしくみ』を読んでそのような考え方は間違っているのではないかと思うようになった。その本には『オランダの家系から、攻撃性と遺伝子の関係がみつかった』という題で、遺伝子と関係が明らかにされた性格の一つに「攻撃性」があることが説明されている。オランダの遺伝学者ハン・ブルナー博士は、放火やレイプ、露出癖などといった衝動的な行動や攻撃的な行動をとる人が多くいる家系について遺伝子を調べてみたら、その家系の中には「MAOA(モアアミン酸化酵素A)」というタンパク質をつくる遺伝子に異常があり、MAOAを全く作れない複数の男性がいたという。

MAOAはセニトロンやドーパミンなどの神経伝達物質を酸化する作用を持つ。酸化された神経伝達物質は機能を失いニューロンの外に排出されるという。このMAOAをつくることが出来ない男性は全員が攻撃的な性格であったという。ハン・ブルナー博士が調査した家系の図の一部が示されているが、保因者の女性の子孫30人中MAOAを全く作れない男性は7人で、その家系全体では14人いるという。その全員が攻撃的な性格であるという。

現代の社会では人々の移動が激しい。国際結婚も多い。移住先で結婚し子供をつくる。そのようにしていろいろな遺伝子が拡散してゆく。ごく普通の家庭であっても家族の性格や知能や病気も様々な遺伝子によって家族の中にいろいろなものが混じっているようになる。顔つきはメンデルの法則により親の顔つきに似るが、性格や知能や病気などは必ずしも親のそれとは似ていないことが多いだろうと思う。自分の子供の中にどういうわけかMAOAを全く作れない子がいる可能性は幾世代も経るうちに増えくる可能性はある。つまり、ごく普通の中流の家庭であっても、家族の中に博士になったり政治家になったりする者がいる一方で、ある日突然殺人の罪を犯す者が現れないとも限らない。家庭や学校での教育が如何によく行われていたとしても、そのような遺伝子を持って生れた子供が成長し、社会に出ていろいろな葛藤の中で揉まれて行くうちに、何かのきっかけで罪を犯してしまう。そのような不幸が、ごく普通の家庭で起きる可能性は今後増えて行く可能性があるのだ。そのような不幸を未然に防ぐためには、継続的な生涯学習や社会教育が必要であると思う。


ブッダは次のことばのとおり、「流転輪廻」「母の胎内に入る」と語っておられる。
12 男は愛執を妻として、長夜に臥す。ひそむ妄執のゆえにくりかえし輪廻流転して、くりかえし母の胎内に入る。このような状態、それとは異なった状態というふうに、輪廻のうちに行きつ戻りつする。