2012年4月7日土曜日


「世界はひとつに」なれるか?(20120407)
 
「春のうららの隅田川・・・」という唱歌で歌われる隅田川はのどかな春の風景であるが、この隅田川は関東大震災や東京大空襲で多くの犠牲者の遺体が浮いていた川でもある。その隅田川の土手はホームレスの青いシートで覆われた小さな小屋が群れを成して並んでいる場所でもある。今日は土曜日、少し気温は低いがお天気も良く、地下鉄浅草駅に近い所には水上バスの発着所があり、隅田川両岸の桜は満開で川岸からスカイツリーも良く見えることもあって非常に多くの人出で混雑していた。

男は初め、今日は千鳥ヶ淵の桜を観にゆき靖国参拝をしようと考えていたのであるが、男にスカイツリーを是非見せたいと思っていた女房の勧めに従い急遽行き先を浅草に変更した。女房は以前と千葉に住む友達と落合い出来たばかりのスカイツリーを見ている。

雷門の左側の路地を入った老舗で昼食をすませ、人ごみの中を通り抜けてスカイツリーが見える東側の川岸を歩いた。以前見かけた青いシートに覆われた小屋は殆ど撤去されていた。東京都がホームレスの人たちを一時的に何処かの施設に収容したのだろうと思う。川には水上バスや屋形船が行き交い実に平和な風景である。男も女房もそれぞれのデジカメでスカイツリーや川面の船の風景の写真を沢山撮った。

橋の脇に東京大空襲のとき犠牲になった数多くの無縁仏を弔う碑が建っている。碑には犠牲者たちは近くの公園に仮埋葬され戦後掘り出して荼毘に付したと書かれている。人々は猛火と炎熱の中必死に逃げまどい、熱さにたまらず力尽きて命を落とした。その遺体が沢山浮かんでいる隅田川の水中に飛び込んだ人も多かった。

このような惨事は人間が引き起こしたものである。広島・長崎への原爆投下もそうであるが、命令に従いそのような大量殺戮の爆弾を投下するB-29機上の兵士たちの中には自分たちが行っている結果、地上で惨事が繰り広げられている様子を想像した者も多分いたであろう。もしそれが自分の親や妻や家族であったらどうだろうかと考えた者も居たと思う。

人は群れをつくると他の群れと争うようになる宿命を背負っている。群れの中の個人は自らの道徳的観念により同じ人類である他の人間を殺すことはできないと常日頃思っていても、その個人は群れの集団心理と掟から逃れることはできない。もし逃れたいと思うなら掟を破ってその群れから脱走するか、自ら命を絶つかのいずれかしか道は残っていない。もし脱走して見つかり群れに連れ戻されたら、その群れのルールに従い、処刑されることある。処刑されないまでも酷い仕打ちを受けるだろう。


スカイツリーの傍まで行って空を見上げるようにしてその塔の写真を何枚か撮った。女房が以前行ったとき汚かった水路はきれいに整備されており、地下鉄「押上スカイツリー駅」もできていた。其処から列車に乗って帰った。たまたま乗った列車が急行で、品川の一つ前の駅で京急線の特急に乗り、川崎で乗りかえて非常に短い時間で家に帰りつくことができた。首都圏の交通網はこの数十年の間に非常に便利になったものである。もしここが首都圏直下型大地震に見舞われたらどんなことになるのか。相当な被害は予測され公開されており、被害を局限する努力は続けられているが、皆「その時は運次第」とあきらめているようである。

家に帰ってテレビ番組で石巻を訪れた藤井フミヤのドキュメンタリーを観た。「Life is beautiful」「あの街に生まれて」などなど聴いて胸にこみ上げるものがあり涙が出た。続いてNHKBS再放送番組「震災から1年“明日へ”コンサート IN 須賀川」を観た。花粉症のせいもあるが涙が止まらなかった。この番組の終わりごろ小学生の合唱「世界がひとつになるまで」があった。西田敏行が感動のあまり涙ながらに「大人の愛で子供たちを守りましょう!」と言ったとき、男も全く同感であると思った。
 
しかし男は一方で、「世界がひとつ」になることは理想であるが、それは絶対実現しないと思っている。万世一系の天皇を頂く日本の中では「日本一家」という感じで「ひとつ」になることができていても、日本の外では国の「性格」が違う。「国家」という群れは他の「国家」という群れと必ず争う。これは人間の宿命である。一方で「国家」の中にいる人々は他の「国家」の人々とは心を通じ合わせることができ、人間として是非そうしたいと思うものである。だから日本人は自分たちがごく普通に常識的に思う「世界はひとつ」の観念を、他の国の人々も同じような観念で思うだろうと錯覚している。

文明批評家・メディア理論家マクルーハンは「地球村」の「どんな民族でも一つの屋根の下に置かれたら、同じ都市の何千もの家族以上に多くの相違と少ない調和に悩まされる。村の条件が整えば整うほどに断絶や分裂や多様性が増す。地球村はあらゆる点において最大の不調和をもたらす。均一性や平穏さが地球村の特性だなどと決して思えない」と言っている。民主党鳩山氏や自民党谷垣氏らが考える「東アジア共同体」の行く先に「通貨統合」「政治統合」が考えられているが、これは危険な構想だと男は思う。