2012年6月29日金曜日


大津皇子・妃山辺皇女の悲劇について現在に照らし別の観方をしてみる(20120629)

 岩波文庫『日本書紀』には、天武天皇崩御後、“皇后臨朝称制(みかどまつりごときこしめ)す。”とある。天武天皇の皇后は即位の式を挙げずに政務を執った。皇后は後に「持統天皇」と諡を贈られた。古代、皇后になる人は必ず皇女であった。天皇の血を引いていることが非常に重要であった。ところが、聖武天皇の皇后は藤原氏から出、桓武天皇の皇后は百済の王族の末裔の出であった。時代が下がるにつれ、出自は重要でなくなってきた。昭和に入り全くの民間人が皇后になった。そして今、女性宮家創設の話が出ている。ゆくゆくは女系天皇への道を開くことになるかもしれない。本当にこの日本の国はそれでよいのだろうか?

 『日本書紀』に“持統天皇元年(686)の冬十月(ふゆきあむなづき)の戊辰(つちのえたつ)の朔己巳(つちのとのみのひ)(二日)に、皇子(みこ)大津(おほつ)、謀反)(みかどかたぶ)けむとして発覚(あらは)れぬ。・・(中略)・・庚午(かのえうまのひ)(三日)に、皇子(みこ)大津(おほつ)を訳語田(をさだ)の舎(いへ)に賜死(みまかし)む。時(とき)に年二十四(としはたちあまりよつ)なり。妃皇女(みめひめみこ)山辺(やまべ)、髪(かみ)を被(くだしみだ)して徒跣(そあし)にして、奔(はし)り赴(ゆ)きて殉(ともにし)ぬ。見(み)る者(ひと)(みな)歔欷(なげ)く。皇子大津は、・・(中略)・・容止墻(みかほたか)く岸(さが)しくして、音辞(みことば)(すぐ)れ朗(あきらか)なり。・・(中略)・・長(ひととなる)に及(いた)りて弁(わきわき)しくして才学(かど)(ま)す。尤(もと)も文筆(ふみつくること)を愛(この)みたまふ。”とある。妃・山辺皇女の可哀そうな状況に同情して、見るひと皆すすり泣いたという。

 この事件の背後に新羅人の僧・行心(かうじむ)がいた。行心は父子とも金という姓であった。事件の関係者は行心を含め30人あまり居たが後に皆赦されている。行心は飛騨の寺に配置された。大津皇子の罪は国家(君主)を危うくすることを謀る罪であり、養老律で八虐の第一にあげられ、斬刑の処せられる。そのとおり、謀反の発覚は九月二十四日であった。関係者が逮捕され、十月二日に罪が明らかになり、翌日死刑されている。

 大津皇子は皇太子・草壁皇子に次ぐ地位にあり、しかも優れた資質をもっていたので、皇后(持統天皇)は自己の所生である草壁皇子の地位が脅かされるのを恐れ、暗に大津皇子を孤立させ、挑発させ、謀反に追いやったのではないかという説がある。

 しかしそれは現在生きる者が当時の状況を想像して言っていることである。何故、新羅人が事件に絡んでいたのか。日本書紀の原文はすべて漢文でシナの後漢書などに見習った文言である。これを書いた人はその時から400年前ごろ帰化していた文書専門の実務官僚たちであろう。新羅人行心だけでなく、そのころ帰化していた朝鮮半島新羅出身者は沢山いた。持統天皇は大津皇子事件の後、帰化した新羅人たちを各地に分散居住させている。

 それから1300年ほども経ち、その間戦国時代もあり、幕府体制となり、人々の移動は激しかったと考えられる。このため人々の血は混じり合い、今の日本人は誰でもその形質の何処かに帰化人の遺伝子に基づく要素があるはずである。

 しかし大津皇子の事件の当時は、帰化人という特殊な要素が日本の中にあったに違いない。今の時代のような堂々と女性宮家創設とかその先に垣間見える女系天皇への道を開くような構図は当時なかったにせよ、当時としては国家転覆につながるようなことが実際に起きたのではないだろうか?大津皇子自身、脇が甘かったのかもしれない。

 日本は、韓国や北朝鮮やシナ(中国)と違って、万世一系の天皇がいる国である。天皇家は日本中の家々宗家のような存在である。日本という国は、世界に類例がない特殊な縄文人と、渡来系弥生人の混血種を基層にし、朝鮮半島から渡来してきた韓人や、後漢時代朝鮮半島にいた漢人、その後時代が下がってシナ江南の呉からはるばる日本に渡ってきた人々など非常に多くの帰化人たちが混血した。

いうなれば日本人は縄文人と長江中下流域からボートピープルとして渡ってきたと考えられる渡来系弥生人の混血種を基層とした多人種・混血の民族であり、しかも天皇がいるゆえに単一民族の国である。夫婦は別称ではなく、欧米と同様。同姓である。そういう国が戦後の状況の中で、女性天皇とか女系天皇ということが人々の話題に上がり、夫婦別称とか在日移住外国人の参政権とかが叫ばれるようになった状況である。大津皇子の事件のように、誰かがこの日本の「国家を謀反(かたぶけ)」ようとしていないだろうか? 日本はこれでよいのだろうか? 我々の子子孫孫の時代には、悠久の歴史を持っているヤマト・日本という国がなくなってしまうのではないかと心配される。