2009年8月28日金曜日

孫娘の隷書(20090828)

  先日久しぶりに孫娘にあった。孫娘は中学1年生である。息子が大阪から運転してきた車から降りるなり、いきなり「おじいちゃん、はい!」と言って差し出されたのが、縦30㎝、横45㎝の額の中に書かれている「君諱景完敦煌」という隷書であった。孫娘は大阪からの車中これを大事に抱えて持ってきて、いの一番に男に見せたかったのであろう。これを見た男がどういう反応をするか期待と不安があったであろう。いじらしい!

  孫娘は男と女房が中学校進学のお祝いにプレゼントしてあげたかなり上等の筆でこの書を書いたのだ。見れば見るほど惚れ惚れする書体である。中学校1年生の子供が書いた書とはとても思えない出来栄えである。「敦煌」の「煌」文字の最後のひと筆が終わったその上に、1cm四方ほどの小さな自分の印を押してある。文字全体のバランスも良い。男は書についてよく知らないが、隷書体は書く人の個性が表れていると思う。それゆえ芸術的価値があるのだと思う。孫娘の書は、後世に残るほど立派な書であると男は直感した。

 男は田舎に帰っていたりして多忙だったので、今日(27日)ようやくその書の額にねじとひもを付けて、男の部屋に飾ることができた。男の部屋の白い壁にはあちこち絵や写真やカレンダーなどを飾ってあるので、孫娘の書は男が机の前に座って左斜め上方の天井に近いところに掲げた。見上げれば見上げるほど感動させられる書である。男はなにか清々しい気持ちになった。いつもこの孫娘の書を見上げて「いいなあ」と思う。

 さて、彼女からこの書を渡されて男はどう訓読すればよいのか初め迷った。調べてみるとこれは「君諱全字景完敦煌效穀人也」と言う言葉の一部であることが分かった。そのことを男は孫娘に教えて上げた。「君の諱は全、字は景完、敦煌效穀の人なり」というのである。これは中国の後漢の時代、曹全という人が黄巾族の乱を鎮圧し民政を安定させた功績で、彼の生前に建てられた石碑に書かれている隷書体の文字であり、拓本が取られて書のお手本になっているものであるということである。

 男は字が下手である。書道の勉強をしたいとかねがね思っているがなかなかその時間的余裕がない。字の上手下手は生まれつきのものであると男は思う。若くして子宮外妊娠で他界した男の実の妹は、字が上手であった。頭もよかった。女房は「M(孫娘の名前)はFちゃん(男の他界した妹)によく似たところがある。性格も、容貌もFちゃんの生まれ変わりではないかと思う。」と時々言う。男もそう思う。

 仏教では輪廻転生を否定していない。先日、酒井法子というタレントは麻薬を吸った罪により囚われの身となっている。前世の行いによって人間界に生まれた彼女は、悟りを求めない行いによって一時的な快楽を麻薬に求めた。彼女の場合まだ地獄に落ちるほど麻薬を吸っていなかった。それは彼女の前世の行いがごく普通の人間であったからである。地獄も極楽もこの世にある。もし彼女の前世で人を殺めたり、極悪非道のことをしていたならば、彼女は人間界に生まれることなく、初めから地獄に落ちていたであろう。

 孫娘は男の妹・Fが生前果しえなかったことを実現させているように男には思える。男はFの生前、兄として思い残すことがあった。これも男の無明のせいであり、修行の心がけの足りなさのせいである。男は来世(あの世)においても天上界に生まれることは決してない。人間界に生まれるが、少なくとも今生よりは増しな徳性を備えて生まれることができるだろう。そう思いながら孫娘・Mにいろいろ教えておきたいと男は思っている。