2010年10月22日金曜日

偶感(20101022)

  男は今日(10月19日)都立大学のパーシモンホールまで、ある女性がその会のメンバーになっているある朗読の会の発表会を聞きに行った。行く途中川の土手の上で60歳代と思われる黒メガネをかけた男性が新幹線の高架の壁面に向かってボール投げをしている。新幹線の列車が取り抜けるときちょっと止めていたが、まだ列車が通り過ぎていないのにボール投げを再開した。壁面には沢山ボールが当たった跡が付いている。老人はその男性に声をかけた。「それはしない方がいいですよ」と。

  するとその男性は怪訝な顔をして「えッ、どうして?」と言って首をかしげ、ボール投げを続けている。「公共の物ですから」と男は言ったがそれ以上のことは言わずに駅へと急いだ。男は‘公共の物’とは言わずに「子どもが真似すると危険ですから」と言えば良かったと後で思った。それにしてもそのような場所では走行中の新幹線に向かって何か危険な物が投げられたり、銃などの発射装置で発射されたら大きな事故になりかねない。男はJR東海道にインターネットで注意を喚起しようと考えながら会場に向かった。

  その男性はおそらく大学を出て60歳を過ぎて定年となり、男と同じように‘毎日が日曜日’のような生活を送っているのであろうか。その子供は30歳代だろう。お天気も良いし他に何かすることもないので、運動も兼ねてそのようなボール投げ遊びをしているのであろう。奥さんはまだパートか何かで働いているのかもしれない。

  法律に書かれていない世の中のルールがある。世の中の暗黙のルールが守られていれば社会問題の発生も少ないだろう。世の中の暗黙のルールが今壊れているように男は思う。その男性の子供の年代の大人、つまり30歳代の男女のゼロコンマゼロ何パーセントかの者が何か社会的問題を起こすだけで、世の中は暗さを増す。30歳代の夫婦は親から教えられていないこと自分の子供に教えることは難しい。暗黙のルールが壊れると社会は暗くなる。

  朗読会では作家の作品の一部分を朗読して聴衆に聞かせる。男は発表者が朗読を始めると精神を集中さえるため、ロダンの考える人のような格好をして目をつぶって聞く。うかつにもある女性の朗読のとき途中で寝入ってしまい、朗読が終わる頃目が覚めて拍手をした。このことはその女性には話せない。しかし聴いているときなかなか良い朗読であると思った。男は普段あまり文学小説に親しんでいないので、朗読を聞きながらその文学作品における作家の表現の仕方や朗読者の朗読の技量などにチェックポイントを置き、自分なりに評価したり感心したりしていた。

  ある女性の朗読が終わり休憩時間となったので、男はアンケートに記入して会場を出、家路を急いだ。女房が「どうでしたか?」と聞く。「なかなか良かったよ。たまにああいうのを聞くのもいいね」と言いながら女房が用意したおやつを頂く。おやつは以前田舎から送られてきていた寒餅を冷凍庫から出して、焼いてくれたものである。砂糖醤油につけて食べる。お茶と一緒に頂きながら午後のひと時を過ごす。かくして時が過ぎて行く。もう10月も後半、光陰矢のごとく時は過ぎてゆき、男も女房もいずれあの世に逝くことになる。