2011年5月31日火曜日

20110531アザミの花


 午後母は退院した。昨日「明日午後2時に退院だよ。」と母に言って、しばらくしてから「退院はいつ?」と聞いてみた。母はすぐ忘れていて「朝10時。」ととんちんかんな答えをしていた。今日迎えに行って「朝ごはんは何だった?」と聞いたら「ご飯とみそ汁と、・・と。」と答える。「お昼ご飯のおかずは何だった?」と聞けば幾つかの品をあげて答える。男はそれが正確な答えかどうかは実際のメニューを予め調べていなかったのでわからない。しかし母の記憶の状況は薬のせいかしっかりしているようである。

 K先生は「(母の認知症の症状は)良かったり悪かったりしますよ」と言う。まだらボケで良かったり悪かったりしながら、母のアルツハイマー性認知症は確実に進行して行くのだろうと思う。母の症状はまだ発症初期の段階である。

 昨夜テレビで森重久弥と高峰秀子が演じる『恍惚の人』が放映されているのをたまたま見た。偶然と言えば偶然である。しかしこれは男と女房がこの映画をテレビで見るべくして見た‘必然’だったのだろうと男は思う。女房は腹を抱えて笑いこけている。森重久弥演じる痴呆老人は「もし、もし」とつぶやいて相手とコミュニケーションをとっている。この老人はいろいろ問題行動を起こすが、高峰秀子演じる嫁を「お母さん」と読んで甘えている。可愛さがある。一般に男が痴呆になったら可愛さが出てくるのではないかと思う。

 母は今日午後2時に退院する。そこで男は1時間ほど前母が入っていた病室に行き、母に「2時近くになったら来るからね。それまでテレビを見ていなさい。と言って母が寝たままテレビを見ることができるようにしてやった。母はリモートコントロールの操作器のらせんコードが伸びることを理解していず、男がコードを伸ばしてやったら、母はベッドに横たわったままテレビを見ることができることを初めて知ったようだった。
 
 久しぶりに今日は天気がよい。男はK病院を出てK町の中央を流れる川の辺を散歩した。太古の昔火山が噴火したあとに出来たこの盆地の中を流れる川の風景は美しい。男はこの風景が好きである。何度見ても飽きない風景が此処にはある。25分前に母の病室に着き退院の支度をした。病室のすぐ前が看護ステーションである。看護師の女性たちに「お世話になりました。またお世話になると思いますが、よろしくお願いします」と言うと、今回のようなことは度々起きているので看護師たちはにこにこ笑いながら、「はい」と言う。
 
 母を家に連れて帰ってしばらくして、女房が「散歩に行こう」と言う。二人で農道を散歩した。田圃に引く水路の水が勢いよく音を立てて流れている。小型トラクターで田を耕しているそばに何羽もの鳶が動き回っている。彼らの狙いは田を耕すと現れる小動物である。一羽が何か捕えてすぐ舞い上がった。女房は「ほら、見て!」声をあげている。

 道端の水路の脇にアザミが沢山紫色の美しい花を付けている。女房が一つ二つ手折って「綺麗!」と歓声を上げている。男は「俺が取ってやろう」と言うと、「とげがあって痛いわよ」と遠慮している。男は勢いよく4つ、5つ手折って女房に渡してやった。その花はコップに活けられて、女房が立つ台所の水道口のところに飾られていた。