2012年8月16日木曜日


お盆(20120816)

 東京では7月にお盆の行事を行うようであるが、田舎では813日がお盆の日である。男と女房は婆さんを老人施設から婆さんを家に連れ帰った。先ずは婆さんが檀家になっているお寺に連れてゆきタクシーを待たせて墓参りをした。家に着くなり婆さんの第一声は「やっぱり‘我が家はよい’」であった。庭木の手入れや雑草の除去は予め専門の業者に依頼してあったので、その部分は綺麗になっていた。花壇や畑の部分には雑草が生い茂っていたので、男は午前中その雑草を取り除き、婆さんが庭木や花壇などを見て安心するようにしてあった。婆さんは何十年間という独り暮らしの間よく家を守っていたが、老人施設に入居後は男と女房がちょくちょく帰った度に家屋敷の手入れを行っている。

 男は婆さんの介助をしながら婆さんに家の周囲を見せてやった。ある庭木の傍に一本の大葉が茂っているのを見つけ「あれは大葉だ、木と違うよ」という。男はその大葉を抜き取ると婆さんは一枚の葉をちぎって手にとり、「匂いがいい、天ぷらにするとおいしいよ」と言う。男はその大葉が植木の間に残っていることには気付かなかった。多分それは業者があえて取り除かずに残しておいたものであろう。

 婆さんは居間で、婆さんが一人暮らしの間座っていた座椅子に座り、お茶を飲み菓子を食べながら女房とあれこれ楽しそうに昔話や世間話をしている。それでも柱の時計を見上げながら「(老人施設に)帰らなくては」という。女房が「今夜8時まで帰ると伝えてあるから大丈夫だよ」というと「ああ、そうかえ」と言って安心する。しかし暫くするとまた同じことを言う。女房が買い物に出かけている間、男は婆さんを昼寝させた。婆さんが長年使っていた部屋は、婆さんを施設から連れて帰ったとき休めるようにしてある。

 女房は婆さんが大好物のうなぎのかば焼きを買ってきてあった。鹿児島県産で2000円もしたという。婆さんの夕食のおかずはそのうなぎのかば焼きであった。婆さんは大喜びでそれを平らげた。婆さんが入居している老人施設では5時半から夕食の時間となる。ほぼ同じ時間に夕食をとり、7時過ぎには婆さんを施設に連れ戻した。施設のベテラン女性スタッフが婆さんの頬をなでながら「うなぎを食べて顔がつるつるだわ、明後日は焼き肉を食べてまたつるつるになるわね」と冗談を言って笑わせる。その様子を見ている他の入居者たちは頬笑んでいる。

施設ではお盆であっても家族が迎えに来ない人も何人かいるようである。婆さんも正月の時期にショートステイで他の施設に泊まっていたとき、正月をその施設で迎えたことがあった。男も女房も自分たちがこうして婆さんを家に連れて帰ることが、そのように家族が迎えに来ない入居者たちに対して気の毒だと思ったが、それは取り越し苦労である。