2009年7月17日金曜日

全自動電気洗濯機(20090717)

 男の家の洗濯機はS社製で電気分解により漂白や殺菌ができるワンドラム方式の全自動である。これから老いてゆく身、洗濯に費やす造作が少なくてすむ機械任せの楽な洗濯機の方が良いと女房も言うので、通りがかりのS電気店の店頭に展示してあったものに興味をそそられ、機械に強い(?)男が決断して相当高い価格で買ってしまったものである。

 それはS社が開発した新製品であった。しかしその洗濯機はどういうわけか洗濯物が白く洗えず、洗っているうちに黒ずんで来る。家事が大好きな第一級主婦である男の女房は相当頭に来ていた。そこで男は同社に苦情を申し入れたら技術者が来て部品を取り換えたり、洗濯の方法を教えてくれたりした。洗濯の方法というのは、洗剤の使用量を洗剤メーカーが指定している分量の半分以下にするようにということであった。

 それでも洗濯が真っ白く仕上がらず、はじめ真っ白だったものが洗濯を重ねるうちに黒ずんでくる。そこで男はメーカー側に申し入れ、今使っている洗濯機を一度工場に持ち帰りテストしてみて欲しい、代わりの洗濯機は要らない、と言ったら暫くして新方式の新品のものを届けてきて設置してくれた。

 しかしこの新式の全自動電気洗濯機でも結果は同じであった。初め白かったものが洗ううちにだんだん黒ずんでくるという問題は解決しなかった。今度こそ真っ白に洗えると女房も期待していたがやはり結果は同じであることにがっかりした。女房は使う洗剤の種類をいろいろ変えてみたりして憂鬱な日々を送っていた。

 全自動電気洗濯機は機械である。男はこの新式の洗濯機を使いこなしてやろうと女房に代わって洗剤の量などいろいろ研究し、この洗濯機に備わっている電気分解(電解)による殺菌や漂白の機能も試した。確かに電解モードにすると洗濯したものが清潔な匂いになる。漂白もよくできる。男は女房に「この機械を使いこなすようにしよう」と言っていた。

 しかし電解漂白モードでは一度30分近くかけて洗ったものをさらに電解モードで漂白するので51分も余計に時間をかけなければならない。合計80分かかる。それだけ時間をかけさえすれば、洗ったタオルが屋外で真っ白に輝いている。そのことは女房も認めていた。
漂白剤を使うよりは電解モードにした方が繊維の間に残っている黒ずみ成分を除去できるので、その辺のメカニズムに詳しいと自認している男は女房に、「漂白剤は使わない方がよい、漂泊したいときは電解モードが良い」などと知ったかぶりのことをのたまっていた。

 女房の皮膚過敏症は洗剤のせいであると思っている男は、女房に自分自身で洗濯機の機種選定をするようにと言った。女房は近くの量販店で洗濯機売場の担当者に使っている洗濯機の経緯を話していろいろアドバイスを貰い、H社製のある機種にしたいと言ってきた。そこで男は女房とその機種を見に行き、女房の云うとおりその製品は期待できると確信した。女房が後で「わたしも洗濯機のことはあきらめかけていた」とぽつりと言う。

 男は毎晩9時頃女房と川べりを一周するスロージョギングをしている。橋の上の歩行路で対向者の通路を開けるため女房の斜め後ろに回って走るとき女房の細い肩の線を見やりながら、男は長年連れ添った女房が急に愛おしくなった。人の一生は短い。その短い間に人は人を愛さなければならない。イエスキリストでさえ、釈迦牟尼でさえ、自分の傍にいる人にしか愛を示すことはできなかった。男はこの女房のため至善を尽くそうと思った。女房も男に心からそう思ってくれている。