2012年7月18日水曜日


地獄極楽は、ほとんどこの世に有り(20120718)

 諾楽(なら)(奈良)の右京の薬師寺の沙門(しゃもん)景戒(きょうかい)が録(しる)した『日本国現報善悪霊異記』(通称『日本霊異記』)には、因果応報のいろいろな話が書かれている。僧景戒は奈良時代後期から平安時代初期にかけて生きていた人である。景戒は紀伊地方の豪族の郡司階層の出で、家柄は大伴氏であるという説や、渡来系の氏族の後裔ではないかという説などがある。彼は仏教僧であり、妻子がいた。その子孫は今いるだろうか?

 この本、新潮日本古典集成『日本霊異記』(小泉 校注)に“景戒は、人間の善・悪の行為について、これは即(そく)現世の身の上に善・悪の結果をもたらすものだという、<現報善悪>の因果の理の実在を確信している。そこで、それを例証する話として、唐土の『冥報記(みょうほうき)』『般若験記(はんにゃげんき)(金剛般若経集験記)』からではなく、「自土」すなわち<日本国>の「奇事」を集録した。それを人々に示して、これを規範にして善行を勧(すす)め、共に極楽往生しようと繰り返し呼びかけている。そうした「奇紀」すなわち<霊異の記>を内容とする、唱導教化のための実例集である”とある。

 どうしても子供が欲しい夫婦がいて、夫の精子を他の女性の子宮内に注入して受精させ、その女性が生んだ子を自分たちの嫡子にしたことが、その夫婦の生涯を通じて観た場合、必ずしも良い結果をもたらさないという実際の例がある。また最近ではどうしても女の子が欲しい母親が、男女産み分けができるタイ国にまででかけて生命の操作を受けているが、これも彼女たちの生涯を通じて、或いはその女の子の人生において、或いはその女の子が将来母親になって生んだ子供の人生において、果たして良い結果をもたらものだろうか?

また、理想主義者たちが、悠久の歴史があるこの日本国の国体を危うくするような動きをしているが、日本国民が彼ら理想主義者たちの本性に目を向けず、彼らの主張に軽々しく同感し、国政選挙において彼らに投票した場合、この日本国の行く末がどうなるものか?因果応報は個々の人びとだけではなく、その人びとの集合体でも必ず顕われるだろう。先祖の墓を粗末に扱った家では不幸が起きているように、国の為命を捧げ、「靖国で会おう」と誓い合って最期を迎えた日本帝国陸海軍の兵士たちが眠る靖国神社を国家として大切に扱わないならば、日本国は必ずその報いを受けるであろう。

 因果応報はこの世において起こるだけではなく、来世においても必ず起きるものである。仏教は人間が人生をどう生きるべきかという「人間の学」であるだけではなく、前世・現世・来世の三世を通じた因果応報を説く「宗教」である。『日本霊異記』は古代の人びとに物事の真実を実例を示して教え・導くための本であるが、もし現代日本霊異記なるものが出版されるとしたら、その資料とする実例に事欠かないであろう。