2011年11月14日月曜日

渡部昇一『日本史』を読んで日本人はどうあるべきか考える(74) (20111114)

 “怒ったのは攘夷(じょうい)に熱心だった孝明(こうめい)天皇(在位一八四六~一八六六)である。孝明天皇は幕府に対し二度も攘夷の意思を表明し、ここに「尊王攘夷」のスローガンが生れることになった。

 幕府には鎖国が続けられないことがわかっていた。日本は「武」の国だから、アメリカの黒船を相手に戦っても勝てないことはすぐさま理解できた。黒船が江戸湾に入ってきて江戸城を砲撃してきたら、止める手立ては何もないのである。ゆえに、腹の中では開国せざるを得ないと思っていたのである。

 そして幕府は、開国しても大きな問題はないと判断していた。それは海で遭難してアメリカの捕鯨船に助けられ、米本土に渡っていた元土佐の漁師、ジョン万次郎(一八二七~一八九八)から得た情報によるものだった。

 ジョン万次郎は白人と結婚した最初の日本人といわれ、アメリカの捕鯨船に乗ったときには船長代理のような役に選ばれていたこともある。ゴールドラッシュにわくカルフォルニアの金山を見たり、アメリカ大統領にも会ったこともある。もちろん英語もできるというわけで、アメリカについて桁違いに正確な知識を持っていた。

 幕府は日本に帰国したジョン万次郎を重用して、いろいろ話を聞いた。その中でいちばん重要だったのは、「アメリカには日本を征服する気はない」ということだった。アメリカが日本に開港を求めた真意は、捕鯨船のための水や補給のための避難港が欲しい、できれば貿易もしたいということであると聞いて、幕府は安堵(あんど)し、それほどの危機感を持たなかった。しかし、幕府はそれを外に向かって公表しなかった。そのため実情を知らずに「攘夷」を声高に叫ぶ攘夷派が生れてしまったのである。

 本来であれば、徳川幕府は初めから断固開国するというべきだった。それを怠ったために、朝廷、諸大名、そして庶民まで巻き込んで日本中が蜂(はち)の巣をつついたような騒ぎになったのである。”(以上、渡部昇一『決定版 日本史』より引用)

 いま日本国内はTPP参加について揉めている。慎重派はTPPに参加すれば日本の農業は甚大な影響を被るし、医療面や保険面で日本の制度が維持できなくなるなどと主張している。一方推進派は日本は参入することにより貿易が活発になり経済が潤うと主張している。一方でTPP不参加はもはや出来ない状況であるから参加し、参加により不利益を被る部分について対策措置を講じればよいと主張する推進派もいる。

 慎重派の主張には幕末の攘夷のような思想が感じられる。「TPP開国を迫るアメリカの要求を退けよ」という思想である。徳川幕府はアメリカが危険でないということを公表しなかった。今の日本政府は国内のTPP反対派の主張に対する反論もせず、国民に対してTPP参加の必要性を説得しようともしない。国民の間に政府に対する不信感が広まるのは当然である。                            (続く)

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